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*輝ける闇、星を継ぐもの、など

book 20110507 120229

開高健 - 輝ける闇

戦争と平和を読了して、本不足に困り慎ましやかな本棚を漁ったときに、これが出てきた。あれはいつの事だったか、まだ10代の、森博嗣のライトノベルばかり読んでいた時期に、友達がそんなものを読まずにこれを読め、と貸してくれたんだっけ。当時の僕は、ほんの数ページで読むのを諦めた。そして、そこから返さずに今に至る。酷い話だ。多分、そのうち読む、とか言って返さなかったんだろう。あれから10年以上が経つ。大学へ行き、東京へ就職し、寮に入り、転寮し、実家は建て替えられ、僕は寮を出て賃貸へ移った。幾度とない引越しにも関わらず、この一度も読まれたことのない古ぼけた薄っぺらい本は目の前の本棚に在る。何か魔力的なものがあるのかもしれない、と不可思議な気分に囚われる。そういった逡巡を経て、30代になった僕は、まるで魅入られるかのようにそれを手に取り読むことになった。

読後の感想だけど、紛れもない傑作であった。いや、酷い傑作だなこれは。読後の虚無感、無力感が尋常じゃない。僕は読書は通勤時にしているのだけど、会社に行く前に読む本ではないね。何故、会社に行く前にこれだけの虚脱感を味わわねばいかんのか。とにかく、これだけの衝撃を与えてくれる作品はそうそうない、しかもたったの300ページ足らずで。

話は平たく言えば、ベトナム戦争従軍日記なのだけど、僕はそれすら知らず読んでいた。気づいたときには驚いた。まさかフランスとロシアの泥沼の戦争物語を読んだ直後に、アメリカとベトナムの泥沼の戦争咄を読むことになるとは。戦争と平和は、基本的には多数の登場人物を客観的に描くことで、巨視的に戦争とは何かを炙り出そうとした作品なのに対し、輝ける闇は一人の主観を通した体験を徹底的に精錬することで戦争を伝えようとした作品と言える。ゲームで言えばRTSとFPSくらい違う。しかし僕が読後に得た感想と結論は両者で余り変わらない。それは、歴史という大きな渦の中での個人の無力感の確認。農民も一兵卒も大佐も将軍でさえも、誰も戦争を戦場を制御できず、殺したくもないのに殺し、死にたくもないのに死ぬ。それに対する恐ろしさ。

しかし、個人の意志でなければ何が戦争を生むのか。複雑化した社会の系自体が、上位の概念を持つことで戦争を引き起こし、人々を泥沼へと嵌めるのか。だとしたら、一粒の脳細胞が人間の行動を決めることができないように、個人の意志では戦争は止めようがないということか。

漫画やVシネマでよくヤクザが麻雀で揉め事の解決を図る場面があるけど、それを見習って麻雀とかでもうちょっと平和的な物事の解決はできないもんかね。と、ビンラディン殺害のニュースを見て思った。泥沼は終わりそうにない。

J・P・ホーガン - 星を継ぐもの

戦争ものばかり読んでも辛いのでSFを読むことにした。名作と言われるものだから間違いないだろうと買ってみたら、間違いない名作だった。

煽りの「月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。」この時点でワクワク感が半端ない。

言ってみれば、これはSFの皮を被った混じりっ気なしのミステリ小説だ。ミステリが殺害トリックと動機の解明を最終目的地にして突き進んでいくように、この話は最初に提示された大きな謎に隠された真実に向かってブラックホールに吸い込まれるかのように落ちてゆく。手がかりを見つける度に、新しい仮説が生まれ古い仮説が打ち捨てられ、結論は想像できない方向へと加速していく。その話の純粋さがカタルシスを生む。通常の小説なら味付けに、登場人物の魅力とか、人間関係とか、愛だとか煩わしいものを振り掛けるが、これには一切そういうものがない。

あるとすれば主人公ハントの無常観くらいか。彼の片腕であったグレイらは話の都合上、中盤以降は一切登場しない。それをハントは後半で「闇に吸い込まれた」「彼らは皆、もはや存在しない」と回顧する。彼にとって人とは、車窓に映る景色のようだ。前から現れ後ろへ消えていく。実際、多くの登場人物はストーリー進行の道具として都合よく登場し消えていくように見える。物語の激流に飲み込まれ、振り返る余裕が無いというのが真実かもしれないけど。ただ、ダンチェッカー教授だけはキャラが生きてて、このシリーズを通して少し特異な存在になっている気がする。

J・P・ホーガン - ガニメデの優しい巨人

星を継ぐもの、の続編だから無条件に買って自動的に読んだ。まあまあ面白い。

J・P・ホーガン - 巨人たちの星

続々編だから無条件に買って自動的に読んだ。けっこう面白い。ハントにも若干人間味が出てきたり、陰謀渦巻く世界になったり、前巻までの展開からは想像できない内容。謎解きという点では弱くなっているけど。

伊坂 幸太郎 - グラスホッパー


地元の友達の車の助手席に無造作に置いてあったのが、伊坂幸太郎だった。妙にその名前とカバーデザインが頭から離れなかった。あれから1年くらい経ったか、ふと会社帰りに買ってみた。

想像以上に面白かった。文体はライトで読みやすい。会社帰りに買って寝る前に読み終えた。最近読んだものと較べると、軽すぎて物足りない感もあるし、いい大人が読む設定ではない気がしたけど、それも含めて良かった。テンポの良い皮肉のこもった会話や、繰り返し現れるメタファーの妙に上手いなあ、とにやりとさせられる、そんな話。でもって読み終えた後に、ジャッククリスピンが架空の人物と知ってまた一本取られたという感じ。

11.05.11 00:33 owotake
「すべてがFになる」を借りて、返すついでに貸した? とうに忘れてた。返せw
「夏の闇」、「花終わる闇」もセットで是非。巨人の星連作よりはダレない続編ではある。
特に花終わるの最後のページとか、社畜つうか人間やめたくなるぐらい朝から凹むことうけあい。

伊坂幸太郎、同僚とか妹とかに薦められて何冊か読んだけど。
グラスホッパーが一番おもろかったね。読後の清涼感があって。
11.05.22 18:15 mtm
すまんそのうち返すw
夏の闇も買ってみた。
最近の文庫本は文字がでかくて風情に欠けるねえ。

小説って奴は文字が小さくて過擦れていて、紙が黄ばんでなくちゃいかん気がする。
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