逢坂剛 - カディスの赤い星
逢坂剛の代表作。これは予想以上に面白かった。話の骨子自体は、日本の広告関係のキザな男が事件に巻き込まれスペインに飛び、さらに大きな陰謀に巻き込まれる、という、逢坂剛のスペインモノのいつもながらのワンパターンな展開。しかし以前読んだものと比べ、圧倒的に読者を引き込む何かがある。強引な展開ながらもそれを忘れさせる文章力、魅力ある登場人物とそれに肩入れさせる描写力。惜しむらくはスペインに行く前にこれが読めなかったことか。読んだらまた行きたくなってしまった。
池波正太郎 - 剣客商売 辻斬り
池波正太郎、鬼平犯科帳とかで有名だけど、ぶっちゃけ全く興味がなかった。けど本屋、特にBOOK OFFに大量にこの人の本が並んでいるんだよね。100円で。
ということは、一世を風靡した売れた作家なわけで、暇つぶしに僕も読んでみようかな、と。
そういう軽い気持ちで適当に手に取ったのだけど、この人の文章、凄いんだよね。流れるような軽妙な文章、話の面白いお爺ちゃんの話を聞いているような、不思議な感覚。そして勧善懲悪に主人公が無敵の強さという分かりやすいエンターテイメント。そうそう、小説はこういうので良いんだよ!と通勤電車の中で僕は思った。
池波正太郎 - 幕末新選組
新撰組といえば、司馬遼太郎の燃えよ剣が面白くて昔ハマったよなあ、と思いつつ池波正太郎なら読むしかないだろう、と剣客商売を読んだ流れで軽い気持ちで手に取ったが、想像以上の名作だった。それも必読レベルの。
主人公は永倉新八。しかし、といってもピンとこない訳だ。新撰組の主人公といえば、近藤勇とか土方歳三じゃない、普通は。アニメの銀魂でも新八はなぜか新撰組じゃなくて万屋だしね。それはどうでもいいか。
緊迫した戦や剣劇の描写の素晴らしさも然ることながら、新撰組の中でも最も数奇ともいえる新八の運命に驚かされる。新撰組の発足前の試衛館時代から戊辰戦争、そしてその後。激動の時代を悔いなく生き抜いた、彼の生き様が鮮やか過ぎて、眩し過ぎて、失われた20年の世代には辛いでございます。
高杉良 - 金融腐蝕列島
安定の高杉良。面白かった。
今回の主人公はバンカー。バブル崩壊後の不良債権に苦しむ銀行を舞台に、飛ばしや内部告発、闇勢力、総会屋、右翼、詐欺師、大蔵省の接待漬け、混乱を極めた銀行とその界隈と関係人物を丁寧に緻密に描写していく様子に圧倒された。一体どうやって取材すればこれだけの情報が集められるのだろう。旧 住友銀行 あたりがモデルのようで異常に話がリアルな反面、 児玉誉士夫 の名前が出てきて若干ご都合主義ぽい部分もあったりするが、それがなければ本当に殺伐としちゃうからね。当時は銀行関係者が銃撃されたり、自殺したり、色々あったけど、この本を読むとその背景がなんとなく分かる気がする。
しかし、主人公含め登場人物は凄く優秀なんだけど、やってることはずっと裏の仕事から不良債権の仕事なんだよね。産業を育てるという、本来の銀行の仕事は誰もやっていないのだった。