映画館で見た4分間の予告編が良かったので、つい。
感想は、面白かったし泣ける話で、見に行くべき作品なのは間違いないと思うのけど、なんかもやもや感が残ったのであった。思うところをメモしておく。
まず、この映画の良い点、泣ける点というのは、好きなものに打ち込み才能を発揮し社会的にも成功すると同時に、愛する人を病で失い国土も焼け野原になり全てを失うという人生の不条理、無常感を体験できることであると思う。そしてそれを受け入れ肯定して生きていこうとするエンディング、そのときのユーミンの「ひこうき雲」が刺さる。この破壊力は凄まじく、ここで泣けた人も多いのではないだろうか。
しかしながら、これは分かりやすいエンターテイメントの構成にではないんだな。いわゆる、戦闘→勝利とか恋愛→両想いとか危機→安全、のような不安定から安定へ心理状態を持っていくことでカタルシスを得るような構造が全体として見受けられず、かなり淡々と話は進んでいくように感じる。いや、構造としては随所にあるにはあるのだけど、脚本レベルで話の強弱や緩急がうまく付けられていない印象を受ける。ただ、それこそが人生なんだ、という狙いすました演出とも捉えられるが。
これに関連して問題となるのが、主人公の声優問題である。エヴァンゲリオンでお馴染みの庵野秀明という声優に関しては素人が主人公の声を充てているのだけど、この棒読み感が凄い。どれくらい凄いかというと、スクリーンが透けて見えないはずのアフレコをしている庵野が見えてしまって映画に集中できないくらい凄い。とにかく、飄々とした棒読みのおかげで主人公の気持ちの変化が読み取りづらく、凄く心理的に不安定なシーンのはずなのに、主人公の声は凄く棒読みで「なんだかこの人落ち着きすぎてるだろ、というか庵野じゃん、素の庵野じゃん。これリテイクした方が良かったんじゃない?」という雑念が頭を支配して話になかなか没せない。アニメってのは、実写と比べれば物凄く情報の欠落したメディアだ。だからこそ様々な大げさな表現の表情や声を使って分かりやすくキャラクターの感情を観客に伝える必要があるし、この映画もそのフォーマットに従って作られているはずなのに、主人公だけはその世界観から逸脱している。けど最後の方は流石に違和感が消えてきたので、2回見ろという深遠な策略かもしれない。だとしたら参りました。ちなみにトトロに出てくる飄々としたお父さんも素人(糸井重里)なのだけど、あれくらいのセリフ量なら変化球としてアリだと思う。
次に飛行機モノのはずなのに、空戦シーンがほぼ無くて肩透かしであること。いや、てっきり「押井がスカイ・クロラで好き勝手やったのをみて、駿も飛行機モノをまた作りたくなったんだろう」(友人談)という予測から、当然派手な戦闘シーンがあるかと思いきや、戦争シーンはまさかの全スキップ。確かに堀越二郎は設計技師でパイロットじゃないし、現に一度もゼロ戦に乗ったことがないらしいので、戦闘シーンがないのも自然といえば自然とはいえね。けど、恋愛部分は丸々他人(堀辰雄)のエピソードだし、カプローニとの交流も全部妄想なわけだから、もうこうなったら堀越二郎+堀辰雄+ 岩本徹三 を足して3で割らないって感じで、天才設計技師なのにエースパイロットという設定も不可能じゃなかろう。名前は堀越徹三郎でいいや、ってこれじゃあまとまる気が全くしないから流石にダメか。しかしミッドウェーの航空機動隊決戦やラバウルの死闘とかを宮崎駿が描いたらどうなるのか、有り得ないとはいえ、想像しただけで面白いんだけどなあ。日中戦争から太平洋戦争前半の無双時代の栄光と、後半の七面鳥撃ちと米軍に揶揄されるほど無力になってしまったゼロ戦というか戦争の悲劇を宮崎駿なら余すところ無く表現できると思うのだけど。話はそれたけど、戦闘機の映画なのに戦闘シーンがないというのは、若干フラストレーションが溜まるよね、ということで。
あと気になったのは、話の切り替えが不自然かつ唐突な部分が多数あるとか、すこし不親切なところが多いくらいかな。けどちょっと引っ掛かりが残ったほうが後々想像の余地が広がって作品としては深みが出る場合もあるから許容範囲と言えなくもない。
ということで、若干気になる部分はあったものの素晴らしい作品でした。
参考リンク
超映画批評「風立ちぬ」40点(100点満点中)
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的を射ているとは思うが40点は低すぎだろう。興行的には本来ジブリとして主力となるファミリー層の取り込みはかなり厳しいとは思うが、むしろそれ以外がターゲットになるし、デートにも使える内容だし、百田尚樹の永遠のゼロも映画化されたりブームも来てる感じがするので、それなりに伸びるんではなかろうか。けどファミリー層を狙う内容でもないのに、この時期公開ってよくわからんね。単なる偶然か。
http://www.youtube.com/watch?v=uBlPq9orrJw
宮崎駿監督作品「風立ちぬ」主人公のモデル堀越二郎とは【戦闘機 ゼロ戦 雷電 烈風など設計】 - NAVER まとめ
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零戦の構造初級篇
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この歳になって航空力学が面白く感じられるようになってきた。
これは読んでおいて間違いないミリオンセラー。
http://www.youtube.com/watch?v=FDcpm1GVAiA