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*進撃の巨人を日本近代史にマッピングする

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進撃の巨人15巻を読んだ。いやはや、少年誌とは思えない話の展開に舌を巻いた。
しかしね、なんだかこの漫画を読んでいると、幾つか日本近代史を連想してしまうんだよね。最近そういう本ばかり読んでるせいかもしれないけど。思ったところをメモ。

1巻:巨人と壁↔鎖国と欧米列強によるアジア侵略

壁の中に暮らしていた人々はその外にある脅威を忘れかけていた。しかし、超大型巨人の一蹴りによって壁が崩壊し、巨人という外敵が侵入し壁の中は阿鼻叫喚の地獄となり多くの人が犠牲となると同時に、人類の領土も大きく減ってしまう。と、同時にそれは一部の人々にリスクを背負ってでも巨人を駆逐しようという強い意志を生むことにもなる。
これは江戸時代、鎖国という壁によって外国との接触を絶っていた日本と、アジア諸国の植民地化を進める欧米列強に重なる。米国の派遣した江戸の人々に黒船と呼ばれた、日本からみたらオーバーテクノロジーな軍艦は超大型巨人だろう。黒船襲来、そして各国との不平等条約等により徐々に日本の主権が脅かされた江戸末期。そこから日本の行く末に危機感を抱き、攘夷(要は外国人排斥運動)などを唱えた人々によって維新が起きる。もっとも最初は生麦事件などを起こしてすぐ現実のチカラの差を思い知らされるわけだが、そこも訓練兵含めた駐屯兵団が巨人に為す術もなく食べられてしまうのと似ている。

1巻:調査兵団↔薩長

最外壁ウォールマリアが壊れたことにより、リスクを覚悟で奪還を目指すのか、大人しく残った壁の中で暮らすのか、世論は大いに揺れる。
これは江戸時代末期、このまま不平等条約などに甘んじるのか(しかし海外の事情に詳しい人にとって、その先に見えているのは他のアジア諸国と同様の軍事やアヘンによる植民地化である)、外国人を追い払うのか、日本の中で考えが大きく揺れ動いていく。その中で、攘夷を唱え列強に戦いを挑み、コテンパンにやられた結果、西洋の国々の力を吸収し日本を変えようとする集団が現れる。それが下関戦争で列強四国に大敗した長州藩であり、薩英戦争を経験した薩摩藩を軸とした倒幕を目指す士族たち。内に篭もらずに巨人の力を最大限利用して巨人に立ち向かおうとする調査兵団と被る(薩摩は最初は佐幕だったので、調査兵団以外の軍に相当するかも)。幕府も西洋の武器を大量に輸入していたが、長州は藩士教育を洋学にするなど兵術や戦術を含めた総合的な軍事力で進歩的であり、兵数では劣るが天下分け目の鳥羽伏見の戦いで幕府軍を圧倒する。

参考: 長州藩の軍制改革と教育

3巻:トロスト区奪還↔日露戦争の旅順攻略

巨人によって奪われたトロスト区。これはウォール・ローゼという外壁の突端に存在する区域で、ここを破られるとウォール・ローゼそのものが危険に晒される。これは人類の領地の大部分が失われ、人類の存亡に関わることを意味する。エレンの巨人化の能力に賭けても勝算は薄いが、時間が経つと奪還は絶望的となるため奪還作戦を強行する。莫大な犠牲者を出すが作戦は成功し、初めて人類が巨人に勝った戦いとなる。
明治時代、日清戦争によって得た遼東半島の権益を露仏独の三国干渉という恫喝により奪われた日本。南下政策を進めるロシアは、遼東半島を要塞化し、さらに朝鮮半島を狙う。その先は日本。ロシアのシベリア鉄道が完成すると極東への輸送が容易となり、独立も脅かされる状況に置かれる日本は勝算は薄いがロシアを追い払う自衛と大陸の権益のため戦争の道に進む。要である遼東半島の旅順攻略では、ロシアの強力な要塞を前に信じられないほどの多数の犠牲者を出すが、対艦砲である28サンチ砲を攻城砲に転用するなどして攻略に成功する。その後の会戦でも勝利を収め、有色人種が初めて欧米列強に勝利した戦いとなる。白人という巨人に食われるしか無かった有色人種が、追い詰められ初めて一矢報いた瞬間である。

それで喜んだ他の植民地の人もいたが、気の毒だったのは清や朝鮮の人たちだな。結局どちらが勝っても、実質植民地化され搾り取られるだけ(厳密に言うと、植民地への投資は大きかったので絞りとるだけではないが、それも搾り取るための投資かもしれず、なんとも言えない)。この植民地の問題に関しては、進撃の巨人へのマッピングは思いつかず。


5巻:女型の巨人の捕獲作戦↔ミッドウェー海戦・レイテ沖海戦

第57回壁外調査の真の目的は、虎の子エレンを囮とした女型の巨人の捕獲作戦だった。損害を出しつつも女型の巨人を捕えた調査兵団だが、予想外の反撃に遭い、多数の精鋭を失うなど壊滅的な被害を受けた上にターゲットの女型の巨人には逃げられる。その結果、調査兵団は力を失い解体する流れになる。以後、調査兵団は国家の枠組みでのマトモな作戦立案と実行が困難となり、以降のアウトローな作戦を余儀なくされる。
太平洋戦争の序盤、日本軍はアメリカの機動部隊をおびき寄せるためミッドウェー攻略を目指す。しかしミッドウェー攻略は米軍に筒抜けになっておりミッドウェー攻略中に連合艦隊は米軍爆撃機の攻撃に遭う。この戦いで空母4隻と多数の艦載機と精鋭パイロットを失う等壊滅的な被害を受ける。これ以降日本は敗勢の一途をたどり、数々の無謀な作戦に繋がる。
どちらも予想外の攻撃を食らい軍隊の大部分を失い、壊滅へと向かうターニングポイント。ただ、日本はアメリカに占領されるのに対し、調査兵団はその後復活してしまうが…。軍事的な作戦としては空母を囮に使って敵の機動部隊を誘き寄せようとして大敗して殆どの艦隊を失うレイテ沖海戦にも近いかも。


13巻:リーブス商会会長暗殺と調査兵団討伐↔満州事変

中央憲兵団は調査兵団に靡いたリーブス商会会長を暗殺する。そして、それを調査兵団の仕業と公表し調査兵団の討伐を開始する。この奇襲により調査兵団は大損害を受け、主要人物が拉致されてしまう。
これは関東軍が柳条湖付近の日本の所有する満州鉄道を爆破し、それを中国軍の犯行だと断定、一気に満州で軍事展開を行い占領した満州事変に似ている。日本人も終戦を迎えるまで中国軍の仕業だと信じていたし、進撃の巨人の住民はより情報源が少ないのだから新聞を信じるしかなく、調査兵団が悪だと信じて疑うことはなかった。結局民衆には何が真実か分からないという悲劇。でも歴史は支配者が作るものなんだから仕方ないよね…

と思いきや、反旗を翻す新聞記者が作中には現れる。この中央憲兵の悪行を晒すことがクーデターの成功に繋がる。対して日本は満州事変の調査報告(リットン調査団による)を受け入れられず国際連盟脱退。必然的に米を中心とした経済的軍事的日本包囲網が作られ大戦を経て中国は大陸から日本を追い出すことに成功する。(正確に言うと、満州事変以前の日露戦争後から日米間でアジアの覇権を巡って衝突が起きていたため、この包囲網はその延長とも言える。満州事変の首謀者の石原莞爾は世界を統べる覇権国家を決める最終決戦が、西洋代表の米国と東洋代表の日本の間で発生するのは必然という思想を持っていた。そのため、東洋が西洋に勝つためには日本は中国と組む、組めなければ無理矢理にでも組み伏す必要があると考えていた。米は逆に日本の拡大を防ぐため中国において武器の支援や排日運動を進めるように工作したと言われている)。
いずれも自作自演で事を起こし、最後は懲らしめられるという点で同じである。(現時点では中央憲兵が懲らしめられるのかはよく分かりませんが...)


13巻:中央憲兵↔特高警察

中央憲兵は、王政に背く個人や組織を拷問に破壊し、メディアを抑え言論を制御する組織。中央憲兵は体制からすれば賊軍となった調査兵団を狩り、調査兵団=悪という図式をメディアを使って広めようとする。壁にトンネルを掘るなど王政が定義する世の中の仕組みを疑い、試そうとする者も秘密裏に処刑された。
戦前、日本では共産革命を画策する極左勢力が跋扈したため、治安を維持するために治安維持法が強化された。それによって生まれた特別高等警察は共産主義者のみならず、反戦主義者など国家の方針に背く個人や組織に次々と逮捕・拷問を加えていくようになった。結果、メディアは元より個人的な言論すらも統制する恐怖の全体主義を維持する中心的な仕組みとなった。(いくら民主主義は衆愚だと言っても、全体主義よりは遥かにマシってことだけは認識しておくべきだよね)


15巻:クーデター↔2・26事件・明治維新

調査兵団のエルヴィンはザックレー総統等を焚き付けクーデターを起こし、全権を掌握する。大義名分は、腐った王政を打破して真の王政を建てる、というもの。しかし実はザックレー自身は民のためとか崇高な目的が在るわけではなく単に王政が嫌いで、クーデターはいつかは起こすつもりだった。
2・26事件は、軍部の皇道派の若手が現状の貧困の原因は腐敗した政治家や財閥・軍閥のせいだとし、王政(天皇の統治)を望んで起こしたクーデター。政府要人を暗殺し主要官庁を制圧したが、勝手に崇拝していた頼みの綱の天皇に「ワシの大事な臣下を殺害するとは何事だ!賊軍が!」といった事を言われ、その時点で事実上クーデターの失敗。何とも脇の甘い青いクーデターだが、その純粋すぎる理屈の通じないテロは政財界やメディアを恐怖に震え上がらせ結果的に軍部批判ができなくなり、軍事政権へと日本を進めることになる。
明治維新では、大政奉還の後も徳川家が天皇の側近を固め支配を続ける予定だったのが、薩長の王政復古の大号令(というと聞こえは良いがこれもクーデター)により側近が薩長で固められる。幕府軍は賊軍となり総合的な軍事力でも劣っていた。このため、鳥羽伏見の戦いで破れ江戸は無血開城となり徳川幕府は滅亡する。

進撃の巨人でも、結局は軍部が腐った政治を糺すため真の王政を望み、独断で行動するあたりはまさに226。226は失敗するが、真の王政を建てる建前の算段までして実際に天下を取ってしまうあたりは明治維新に被る。
明治維新の中心となった薩長(特に長州)は新しい日本を作る意志もあるが、幕府への憎悪と天下を取りたいという権力欲も強かった(特に幕府軍の中心ともいえる会津藩を憎んでおり、戊辰戦争では酷い仕打ちをした。このため、未だに長州を恨んでいる会津の方も年配には多いようだ)。これに関してザックレー総統に近い動機を感じる。

参考: 「維新」と云う幻想

まとめ

以上、時系列とかは無視してエピソード単位で強引にリンクしそうなものを上げてみた。所詮はコジツケだけど、これで日本の近代史に興味が持つキッカケにでもなればいいかな、と。

さて、進撃の巨人の面白いところは、様々な事件や葛藤というものが、普遍的な出来事であり、現実世界に写像し易いことではないかと思う。日本史に限らず、フランス史だろうが、中国史だろうが、色々な史実に重ねて考えることができる気がする。例えば韓国の一部では、壁=日本の日米安保・憲法第9条、壁の外に出たがる主人公=日本の再軍備を望む日本人、という解釈をしているらしい。香港では、巨人=中国、だとか。そういった解釈の自由度の高さが考察を盛り上げ、売れる一つの理由になってるのかも。

参考: 「進撃の巨人」が香港で支持される“意外な”理由
参考: 韓国人が『進撃の巨人』に投影している世界とは?