吉村 昭 - 高熱隧道
この間、 黒部ダムへ行って ハマったのがダム建設に関する小説であり、そのひとつが吉村昭の高熱隧道であった。それは、黒部第三発電所を作るための、トンネル掘削の史実に基づく再現小説であり、これまで体験したことも読んだことのないデスマーチがそこに描かれていた。
とにかく壮絶なので一度は読んでおきたい。これを読めばソフトウェアのデスマーチなんてどれだけ酷くても余裕に思える。
- 黒部川沿いの岩肌を削った幅員60cmの日電歩道で物資を運搬。ボッカと呼ばれる山歩きに熟達した強力100名を通常の倍の賃金でかき集めるが、転落死多発でさらに賃金が増額
- 黒部に怪我なし(=ミスは即死を意味する)
- 掘削を進めたところ岩盤温度が85度まで急上昇、学者は95度が最高温度と断定するが全く当てにならず、最終的に岩盤最高温度165度に達して普通に考えたら作業不能
- あまりの難工事に、最上流の第一工区を落札した業者が序盤で早々と工事放棄
- 暑さで作業が不可能のため、後ろからホースで冷水を掛ける掛け屋がおり、さらにその人にも水を掛ける人がいる
- しかしその掛けた水も即蒸発、あまりの暑さに殆どの人はそもそも作業場の切端に到達できず。作業は20分も持たないし、水分補給が間に合わず卒倒する人続出
- 岩盤温度が高すぎて、ダイナマイトが自然発火で生き埋めになりまくり。法規制で40度以上の岩盤にダイナマイトを挿してはいけないが、余裕で無視
- 雪崩で宿舎が崩壊、全員生き埋め
- 雪崩に負けないように、鉄筋コンクリートの宿舎を建てるが、それも雪崩で跡形も無く消失
- しかも宿舎の残骸も死体も見つからない。2ヶ月後、580m離れた、一山超えた奥鐘山の岩壁に宿舎ごと叩きつけられていたことが判明。全員即死
- 秒速1000mの強烈な爆風、泡(ホウ)雪崩で吹き飛ばされたらしい。環境が過酷すぎだろ
- 死体がバラバラなので、仕方なく適当につなぎ合わせて遺族に返したら、後で遺体が余る
- さらに建て直した宿舎は雪崩→火事のコンボで消失
- 大事故の度に何度も富山県警と県庁から工事の全面中止の措置が取られるが、商工省、内務省からは工事を再開せよとの命
- それでも県警は中止させる意志だったが、天皇陛下から御下賜金があった。県警も県庁も御下賜金の対象となるような重要な工事を自分達の意志では中止できないことは分っており、工事再開
- 終盤、人夫の感情が消失。表情や会話が消える
- 技師も精神的に壊れてしまい、自ら雪崩の飲み込まれ死ぬ
とにかく壮絶なので一度は読んでおきたい。これを読めばソフトウェアのデスマーチなんてどれだけ酷くても余裕に思える。
吉村 昭 - 深海の使者
高熱隧道が面白かったので他にも読んでみようとBOOK OFFの100円コーナーで買ってみたが、これが高熱隧道以上の傑作、いやデスマーチであった。
第二次世界大戦の最中、日本とドイツの間は敵国があり、二国を繋ぐ手段は電信しかなかった。物資の運搬や技術の交流は不可能であった。そこで潜水艦によって連合国の領海を掻い潜り、日独連絡路を作ることになったのだった。特に日本はレーダーの技術が非常に遅れており、その技術やノウハウを得ることが急務であった等の背景がある。
3万キロにも及ぶ航行は最初はなんとかうまく行く。作戦当初の1942年は日本も南方作戦に成功し、ドイツもヨーロッパを占領し、東部戦線でも連戦連勝、北アフリカではロンメル装甲師団がまだエジプトを確保しており、枢軸国は戦勝ムードに酔っていた時期であった。
しかし、誰もが知るようにこの1942年を境に戦況は連合国側に転じる。ドイツは東部戦線で敗北し、北アフリカも失う。日本はミッドウェー海戦で大敗、ガダルカナル島玉砕。圧倒的な物量と兵站の差で日独が急速に力を失っていく過程で、この連絡航路は文字通りのデスマーチとなってゆく。成功の見込みが無いにも拘らず、潜水艦がドイツへ向かうのだ。読んでいて異常な感覚を覚える。皆、異常な使命感や士気を保ち、死地を潜り抜けようとするが、やってることは特攻と差して変わらないのである。時間が進むごとに戦況はより悪化し、ますます絶望的になっていく。欧州ではノルマンディ上陸作戦も始まり、ドイツは制空権も制海権も失う。安全な港も無くなる。日本はマリアナ沖海戦惨敗、サイパンで3万人が玉砕、レイテ沖海戦で連合艦隊が壊滅。神風特攻隊等という気違えた作戦が現実化する。それでも潜水艦は出港する。やがてドイツは降伏し日本の敵となる。連絡する相手は居なくなる。物語は淡々と、潜水艦が沈むこと、人が死んだことを伝える。ノンフィクションであるから、沈んだ艦の出発後の物語は存在しない。
戦争の一部始終を、最後は悲劇で終わることを知りながら、この日独連絡路に命を捧げた人たちの視点で体験するということ。その意味は何だろう。読み終えても、何が正しかったのか、何が正義だったのか、何が正解だったのか、難しいことは僕には判らない。ただただ、知り、茫然とするだけである。
第二次世界大戦の最中、日本とドイツの間は敵国があり、二国を繋ぐ手段は電信しかなかった。物資の運搬や技術の交流は不可能であった。そこで潜水艦によって連合国の領海を掻い潜り、日独連絡路を作ることになったのだった。特に日本はレーダーの技術が非常に遅れており、その技術やノウハウを得ることが急務であった等の背景がある。
3万キロにも及ぶ航行は最初はなんとかうまく行く。作戦当初の1942年は日本も南方作戦に成功し、ドイツもヨーロッパを占領し、東部戦線でも連戦連勝、北アフリカではロンメル装甲師団がまだエジプトを確保しており、枢軸国は戦勝ムードに酔っていた時期であった。
しかし、誰もが知るようにこの1942年を境に戦況は連合国側に転じる。ドイツは東部戦線で敗北し、北アフリカも失う。日本はミッドウェー海戦で大敗、ガダルカナル島玉砕。圧倒的な物量と兵站の差で日独が急速に力を失っていく過程で、この連絡航路は文字通りのデスマーチとなってゆく。成功の見込みが無いにも拘らず、潜水艦がドイツへ向かうのだ。読んでいて異常な感覚を覚える。皆、異常な使命感や士気を保ち、死地を潜り抜けようとするが、やってることは特攻と差して変わらないのである。時間が進むごとに戦況はより悪化し、ますます絶望的になっていく。欧州ではノルマンディ上陸作戦も始まり、ドイツは制空権も制海権も失う。安全な港も無くなる。日本はマリアナ沖海戦惨敗、サイパンで3万人が玉砕、レイテ沖海戦で連合艦隊が壊滅。神風特攻隊等という気違えた作戦が現実化する。それでも潜水艦は出港する。やがてドイツは降伏し日本の敵となる。連絡する相手は居なくなる。物語は淡々と、潜水艦が沈むこと、人が死んだことを伝える。ノンフィクションであるから、沈んだ艦の出発後の物語は存在しない。
戦争の一部始終を、最後は悲劇で終わることを知りながら、この日独連絡路に命を捧げた人たちの視点で体験するということ。その意味は何だろう。読み終えても、何が正しかったのか、何が正義だったのか、何が正解だったのか、難しいことは僕には判らない。ただただ、知り、茫然とするだけである。
吉村 昭 - 三陸海岸大津波
明治と昭和初期に3回起きた大津波の記録や証言集。
記憶は風化し、何度も人間は悲劇を再生産する。21世紀になっても、それは明治と変わっていないことが証明されてしまった。進歩が無いというより、それが人間の変えられぬ性なんだとすら最近は思えてきた。
記憶は風化し、何度も人間は悲劇を再生産する。21世紀になっても、それは明治と変わっていないことが証明されてしまった。進歩が無いというより、それが人間の変えられぬ性なんだとすら最近は思えてきた。